常識の哲学



はじめに

◆哲学は役に立たない学問か
 哲学的に考えることは、アリストテレスやヘーゲルなどの、歴史上の哲学者しかできないような特別なことではありません。あなたの日常生活においても哲学的に考えるべきことはいくらでもあります。
 多くの人々は、哲学は役に立たない学問の代表のように考えています。一方、多くの哲学者は、哲学は人生において大切なものであると主張しながら、何が正しいかについては、あいまいな答えしか与えてくれません。彼らは何が正しいかではなく、考えることが大切だと言います。しかし、何が正しいかを抜きにして、ただ「ああでもない、こうでもない」と考えて時間を費やすことが、本当に人生において大切なのでしょうか。忙しい人は、忙しい生活を改めて、ただ当てもなく考えるべきなのでしょうか。それとも、忙しいから哲学は無用だと割切るしかないのでしょうか。
 私はどちらも違うと思います。忙しい人たちにも哲学は不可欠のものですし、何が正しいかを抜きにして、ただ当てもなく考えて時間を浪費する必要はないと思います。むしろ、哲学なしには「ああでもない、こうでもない」と取り留めがなくなってしまうのを、哲学によりひとつづつ整理し解答を与えていくことができるのではないかと思います。

◆哲学は科学や常識に敵対するものか
 哲学と称するものの中には、科学や常識に反する議論を展開するようなものがあります。哲学が、常識とされている考えについてもそのまま受入れるのではなく、その考えの根本を問い質すものであることはその通りです。しかし、科学的真理はあくまでも科学的検証により評価されるものであり、哲学はその真偽を論ずるものではありません。むしろ、科学は本来どうあるべきものであるか、科学技術はどのように利用されるべきか、などを明らかにするものが哲学だと思います。また、すべての学問がそうであるように、哲学は究極的に常識に反するものではありません。哲学は、常識の根拠を明らかにし、その妥当性を再評価するものではないかと思います。

◆あなた自身の哲学へ
 この本は、いろいろな哲学的問題について私の考えをのべたものです。その多くは読者の方々に共感していただけるものと期待していますが、あなたの考えと私の考えが完全に一致することはあり得ないでしょう。この本に書いてあることを鵜呑みにするのではなく、自分とどこが違うかを考えることにより、あなた自身の哲学を始めていただきたいのです。
 大切なことは、この本をただ読み流して終わりにしないことです。何かしっくり来ないときには、どこがしっくり来ないかをはっきりさせるだけでも大きな収穫です。さらには、自分自身の考えを、自分の言葉で表現して、他の人に説明することができれば、もう立派な哲学者です。
 あなたにとっての答えは、あなた自身の中にあります。 この本で、私は、自分なりの答えを書いていますけれど、私の考えを押しつけるのが目的ではありません。ひとつの考え方の例を示しただけです。言わばたたき台です。私の考えをたたき台にして、あなたにとってもっと納得のできる答えを、探し出すお手伝いができれば、それが私の最大の喜びです。

◆自分の言葉で語ること
 自分の考えを言葉にすることは、非常に大切なことです。議論の中で、「うまく言えないけど賛成できない」とか言う人がよくいますが、うまく言えないということは、自分自身わかっていないか、少なくとも説明できるだけ充分にわかっていないと言えます。哲学に限らず自分の考えることが言葉になってこそ、人と議論して考えを発展させることができるのです。
 最初はうまく説明できないのは当然です。ああ言えば良かった、こう言えば良かったと、悔やんだり自己嫌悪に陥ったりしているうちに、自分の考えが磨かれ、説明する技術も身につき、哲学的に成長するのです。説明しようとしなければ、ああ言えば良かったと後悔したりすることがない分、成長することもないでしょう。

◆私自身が青春時代に出会いたかった哲学書
 手前味噌かもしれませんが、私自身が青春時代に出会いたかった哲学書を形にするならば、この本のようなものではないかと思っています。私は青春時代に様々な哲学書を読みあさりました。しかし、私の知りたいことに答えてくれるものはありませんでした。哲学入門書と称するものも多数読みましたが、私にとっては、どれもピントはずれのものばかりでした。
哲学も他の学問と同様に、長い歴史の中で発展しています。それを無視して、自分だけで一から考えようとしても、優れた考えにたどり着くことができないことは確かです。しかし、書物を読んで知識を吸収するばかりで、自分で考えないのであれば、哲学を学ぶ意義がありません。哲学とは、自分の人生を自分自身で考えるためのものです。
この本に書いてあることは、私にとって、「目からウロコ」と感じたことばかり集めたつもりです。このような考えにたどり着くまでに、随分時間がかかりました。読者の方々にも、「目からウロコ」と感じていただければ、うれしいのですが。
もとよりこの本は、学問的であることを目指したものではありませんので、学問的には不充分な点も多いと思います。しかし、この本は少なくとも、哲学上の重要な問題に関して、読者に議論のスタートを提供しております。また常に健全な常識に即して議論を展開したつもりですし、読者を惑わすことがない点で、従来の哲学入門書よりも優れているのではないかと思っています。皆様方のご批判を仰ぎたいと思っております。


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