理解の壁




データ

作者名 作品の分類 ページ数
西元教善 数学教育学 141

ISBN 書籍サイズ 定価(税込・円)
978-4-86420-012-7 A5 1,980




概要
子どもの学力について、国内外でいろいろな調査が行われています。芳しい結果は聞かれず、これからどのように回復させていくか、特に、わからない、嫌いな教科に挙げられることが多い数学については、悩ましい課題になっています。

いつの時代でも、数学の不得意な人はいます。今の子どもだけではないのですが、「ゆとり教育」で以前は学習していた内容が大幅に削減されたこと、それに伴って授業時間も減少したことは、それに拍車をかけたようです。時代や社会的な風潮からかもしれませんが、わからなくても平気、わかろうと努力しない子どもが増えてきているのは残念なことです。

もちろん「わかりたい」のに、努力もしているのにわからないという子どもも多くいるでしょう。数学の先生も「わからせたい」と思って授業をしているはずですが、うまく歯車が噛み合わないことがあります。

「わかる」という経験はだれしもあるはずです。別に算数・数学に限らなくてもよいのですが、特に算数・数学の場合はその感動が大きいと思います。逆に見れば、「わからない」ととても苦痛になります。だから、数学から逃避するのだと思います。

数学を勉強していたら、よく壁にぶつかります。それは数学の内容の壁です。本書のタイトルは「理解の壁〜数学がわかるとは〜」です。数学を勉強していてぶつかる壁には、内容を超えて「わかる」ことそのものということもあります。「できる」、つまり正解が書けて高得点をとれるけれど、自分は本当に数学が「わかっている」のだろうかとか、「わかっている」のになぜ「できない」のだろうかという自分への疑問もあると思います。

「わかる」とは一言でいうのはなかなか難しい面があります。公式や定理、解法のアルゴリズムやパターンを暗記して、それらを使って解けることだけ・・・とも違うようですし、自分の持っている理解の型紙に合わせることだけ・・・でもないようです。また、わかったと思ったことを論理的に数学的に記述できることだけ・・・でもないようです。これらは、数学が「わかる」ことのいろいろな様相です。これらがすべてできるとよいのですが、どれかしかできない、どれもできないといった「壁」があると、数学が「わかる」ことへの壁ができてしまいます。

本書では、数学を理解するときに、その壁となる原因は何か、何が欠けているから、その理解ができないかに答えられるように、いろいろな理解の様相について解説をしました。わかることをわかる、理解を理解するということから「メタ理解」と呼ぶことにしますと、本書は数学のメタ理解について論じたものになります。 数学がわからないからどんな勉強をしたらよいのかという高校生、生徒に数学を教えているけれどわからせるにはどうしたらよいのだろうという先生に、本書は速効性のある解答にはなりにくいかもしれませんが、数学がわかるための土壌を改良する肥料にはなれると思っています。

何事も事を急いては、し損じることがあります。かといって、現状を鑑みれば悠長に構えておけるほどの時間はありません。そろそろ本当の数学教育を実践する時期になっているのではないかと思います。

この本のタイトルは、理解の壁〜数学がわかるとは〜です。数学がわかるといってもいろいろな理解の様式があるわけです。そこには一見、壁があるようにも見えます。そう見えるから区別ができるのかもしれません。 関係的理解、用具的理解に始まり、私としては論理的理解、記述的理解をそれらに加えました。スケンプに倣って、ディレクターシステム を縦に、理解の様式を横にとって、計8つの理解カテゴリーを考察しました。さらに、それを平面的に扱うのではなく、立体的に扱ってもみました。

また、左脳、右脳という二つの脳の機能をディレクターシステム に組み入れて、4つの司令カテゴリーから理解を考えたりもしました。

このように区分してわかるのは、生徒がある偏ったカテゴリーに属する傾向があるのではないかということです。特に、数学が苦手な生徒たちについてです。その生徒たちには抜け出すことのできない壁があるようです。たとえば、用具的理解から抜け出せない。このような生徒にとっては、関係的理解が壁になっています。さらには、関係的理解までできるのに、記述的理解が壁になって、わかっているのにできていない―答案の書き方がよくなくて、点にならない、減点される―ということもあります。

成長することは、壁と思えることを乗り越えていくことだと思います。その壁とは具体的にどんなものかを知ることに少しはこの本が役立てるのではないかと思います。生徒にも、特に中学・高校の数学の先生に読んでいただき、数学の授業の改善に役立てればと思っています。


著者紹介
【経歴】
広島大学理学部数学科卒業(S54.3)
広島大学大学院教育学研究科教科教育学(数学教育学)修了(S56.3)
山口県立岩国商業高等学校勤務(S57.4〜S61.3)
山口県立防府高等学校勤務(S61.4〜H3.3)
山口県立下松高等学校勤務(H3.4〜H14.3)
山口県立岩国高等学校勤務(H14.4〜)

【受賞歴】
第58回読売教育賞最優秀賞2009
第55回読売教育賞優秀賞2006
第7回啓林館教育実践賞審査員特別賞2008
第4回武庫川教育賞優秀賞2007
山口県メダル栄光(文化賞)2009
岩国優秀文化賞2010



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