琴声(第一号)




巻頭言

 文学を楽しみ、文学を語る場を、同人誌という形で設けてみようと思います。私の専門としている三島由紀夫と東文彦についての記事が多くなると思いますが、それに限らず他作家であっても取り上げていきたいと思います。また洋の東西を問わず、さまざまな文学作品を語る場にしたいものです。古典を取り上げることもあるでしょうし、現代の様々な文化、たとえば映画、アニメ等を考えることも有意義だと考えます。

 できれば、醜さの暴露に価値を見いだすような発想ではなく、自分の受けた感動を語る場にし、読み手の心理にいったい何が起こってその作品が重要なものと感じられるのか、といった視点で考えていきたいと思います。そのため、私の行う三島作品の考察は一般に行われている解釈とはかなり違ったものになるかもしれませんが、それもまた楽しんでいただければ嬉しいです。

 現在は私ひとりで始める同人誌ですが、いつかはたくさんの人が意見交換できるようになるといいと考えています。学生時代に戻って気軽に授業でレポート報告をするように、自由にそれぞれのアイデアを発表する場となってくれることを望みます。本格的論文でなく、文学作品をめぐる思いを語るエッセイなども大いに歓迎します。文学作品を愛し、その美しさを大切にしていきたいと思っている諸氏に、考えたり味わったりする楽しみを提供することができれば幸いです。

 雑誌の名前「琴声」とは、鈴木三重吉の詩「秋」にちなみ、美しさへの共鳴から発する自然な表現衝動を表す言葉として選びました。以下に、その詩を示します。

    秋   (鈴木三重吉/作)

    この静けさの中に
    一つの素朴な琴を置けば
    秋の美しさに耐えかねて
    琴は静かに
    鳴りいだすだろう

 この詩に見られるように、美しさへの共鳴が個人を揺り動かし、自然な衝動の発露としてその感動を表現する、そういった活動の行われる場として、雑誌「琴声」をいかしていきたいと考えております。自分を揺り動かした美しいものに対してその感動を形に表し、作品を通して自分の目に見えたものは何かを考え、そこに具体的形を与え、他の人達とも共有することができるようにすること、そのような営みを促す場になっていったならばいいのですが。

 また、もう一つ、上田秋成の『雨月物語』序に「令読者心気洞越也」とあります。「洞越」とは音をよく響かせるために琴に開けられた穴のことをいうそうです。すぐれた文学作品は読者をその琴の穴にしてしまう力を持つというのです。読み手は作品に共鳴し、震え高鳴り、共に旋律を奏でるという秋成特有の感覚があります。文学とは、読み手の中に生じる現象であるとも言えるのではないでしょうか。その共鳴現象、共感して奏でる琴音を、ここで掬い上げることができないものかと思っております。

 またさらに、「琴声」の「キンセイ」という音が、別な語「金星」を連想させる点も、美の神に結びつくものとしてこの雑誌の名にふさわしいと考えています。


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