フラーとカウフマンの世界




僕は物理お宅博士である。つまり、いつも家にいて好きな時に研究するタイプの科学者、フリーランス物理学者である。だから、いつも時間は十二分にある。だれにも邪魔されることもない。僕はめったに大きな書店に行くことはないが、たまには本屋に行くこともある。そんな時面白い本に出会うことがある。昨年の暮れにそんなことが起こった。

最初の一回はここ阿南のとある本屋の実用書の棚に見つけたJ・ボールドウィン著(梶川泰司訳)、「バックミンスター・フラーの世界」(美術出版社、2001年11月15日初版)という本と出会ったことだ。物理学者である僕は当然フラーの名前は知っていた。なぜならフラーの発明したと言われるサッカーボール型ドーム構造と同じ立体構造を持つ炭素分子がフラーレンと呼ばれるようになり、その発見者はノーベル化学賞を取ったという話は有名だったからである。

僕は当時自分の掲示板、Kazumoto's Scientific BBS (http://bbs9.otd.co.jp/kazumoto/bbs_index)を開いていたのでこの本の面白さを読み進む度にそこで紹介した。そしてこの本を読んで行く内にどうしてもさらにもっとフラーの大事な本、バックミンスター・フラー著(梶川泰司訳)、「クリティカル・パス」(白揚社、1998年11月15日初版)を読みたいと思うようになった。最初は図書館で取り寄せて読んだ。この本はあまりに素晴らしい本だったので、後でとうとう買うことになってしまった。もちろんこの本の内容についても僕は解説した。

第二回目はたまたま妻と徳島そごうの本屋へ行った時、スチュアート・カウフマン著(河野至恩訳)、「カウフマン、生命と宇宙を語る」(日本経済新聞社、2002年9月13日初版)という本と出会ったことである。その本屋の科学本棚の中でこの本を見つけ、ちょっと立ち読みした瞬間に僕は一種の電撃のようなものを受けた。というのもこの本の主テーマもまったくフラーのテーマと同じだとすぐに気付いたからである。だからこの本をすぐに買って家で読んで行った。読み進みながらいつものように僕の掲示板に内容を書き込んで行ったというわけである。

そして、僕の掲示板の参加者と対話し、内容をお互いに作り上げていった。つまりそれぞれの話題についてあれやこれや議論して生まれたものである。だからほとんどが僕の掲示板の参加者達との共同作業で出来たものである。その内容をまとめたのが本書である。しかし残念ながら、この本のためには著作権の問題もあり僕自身が直接書いた部分だけ集めなくてはならなかった。だから他の参加者の人の意見は僕の記事の中から間接的にしか現れないだろう。にもかかわらず、総体として他の多くの参加者の話の内容も彷佛できることは間違いない。

本書の内容はバックミンスター・フラーの人生や歴史、仕事や業績、さらにはその思想などフラーの本に書かれていることをすべて僕の言葉や考え方で見直していったものである。最初はボールドウィンの本の話に沿って、それからフラーの本の話に沿って話が進む。そして、偉大なカオス生物学者のカウフマン博士の話に沿ってどんどん進んで行く。最後に僕はフラーの世界とカウフマンの世界を融合する全く新しい体系が存在するという仮説へと突き進む。序論として野依博士の不斉合成の話題、フラーレンやプリオンの話題なども付け加えておいた。一般的な科学評論やその他の話題も少しおまけした。そして、内容を理解しやすくするために多少組み直しも行い、言葉も掲示板特有のくだけた口語体から本として読みやすい普通の文体に変えた。掲示板のものよりは少しは読みやすくなったかも知れない。だから、読者の皆さんは非常にとっつきやすく面白いと思うだろう。こういう内容の中から皆さんが少しでも今カオス理論学者や理論物理学者が立ち向かおうとしている科学、いや科学と言うよりはメタ科学の面白さ、あるいは将来の科学をどう見ればもっと面白くなるのかということを学んでもらえたら最高である。

この宇宙は自然科学のもっとも素晴らしい教材である。もちろん生物学も物理学もその一つである。人間のやることはみんなどれも一つにつながっているからである。建築学やデザインも科学につながっているし、逆に科学も建築学やデザインにつながっている。だから、建築学やデザインの話題でも科学者にも読んでもらいたい。そしてできるならデザインの科学や社会進化論などに興味を持ってくれる人々が増えることを僕は心から期待している。


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