大衆化する愛国婦人会B−2




愛国婦人会では機構改正と同時に会員増募計画も発表し、1935(昭和10)年までに60万人の新会員を獲得する予定を立てた。会長がこの計画を地方本・支部長にあてた通牒からみてみよう。


拝啓。時下益々御清勝の段清慶賀候。
陳者愛国婦人会創立の趣旨及び沿革に就ては御熟知の如くに有之、且つ其の我が国に於ける最大婦人団体として日露戦役以降軍人の後援及其の遺家族の慰問救護に貢献し来りたる光輝ある歴史に就ても改めて茲に呶々するを要せざる所に御座候得共、輓近(一)郡役所廃止(二)財界の不況(三)地方官の更迭に伴ふ支部長の頻繁なる更迭、及び(四)幾多婦人団体の進出等に基く影響に依り、今や本会の前途は俄に楽観を許さゞる情勢に有之、今後之に善処すべき方策に付き日夜苦心不能措所に有之候。就ては本会本来の使命たる軍事救護に関しては、此の際更に其の徹底を期し、戦死者の遺族に対しても、其の生活を保障するに於て誓って将来十全の方途を講じ、其の他満州派遣軍将士及び現役軍人家族の生活上に付ても後顧の患なからしむるに於て違算なからむことを努め、尚ほ平時に於ける社会事業に就ては益々之を拡張し、以て本会の活動をして苟も時運の推移に遅れざらしめん事を期すると同時に、女子青年の思想教化上に就ても、大いに力を致し、斯くて上 皇室の特段なる恩寵と 総裁殿下の殊遇とに酬い奉らむとするの覚悟に有之候。要は今や多難なる軍事上、社会上、思想上の時局に処し、我が国婦人の全能力を発揮せしむるに於て、本会は茲に最善の努力を致すべき事を声明せむとするものに御座候。(中略) 就いては何卒右趣旨遂行に関し貴支部の御活動上万全の方途を策せられ候様特に御高配相煩度此段及御依頼候
                                   敬具
昭和七年一月
                   愛国婦人会会長   本野久子
地方本支部宛


この通牒をみると、愛国婦人会が不振である理由にこれまでの愛国婦人会への批判だけでなく、地方の行政機関の問題が挙げられている。これは実質的には愛国婦人会の支部長らが県知事夫人で、地方顧問が知事であるということに深くかかわっている。愛国婦人会は内務省を監督官庁とする団体であり、地方官とその組織を利用してきたのである。

愛国婦人会は軍遺族や傷病兵だけでなく、現役軍人にもその救護を広げることが語られている。これまでも戦時中や地方では現役兵とその家族への救護は行われていたのであるが、その規模は限られたものであった。満州事変から日中戦争へと戦争が常態化する中で、軍関係の救護はその規模も期間も拡大していくことになる。


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