「麦わら帽子」 ミチタリル 夏木立に住まう 無人駅の古びた椅子で わたしはひとり 憩んでいます 時折 朽ちかけた壁の隙間から 眩い光が零れたり おどけてみたりするものだから つい うとうとしてしまいます もう わたしのことなど 忘れてしまったのでしょう、と 夢現に あなたを待つよりも 稀に吹く 隧道からの風に乗り 一緒に 飛んでしまおうと 心に決めました そのまま わたしは光の中へ 恍惚と 旅立つのです 次の列車で. . .
「風姿水伝」 水村健治 その風を得て 水より水を伝わりて 能面をつけた女人 波の上を舞いながら やってくる 水の化身 淡い紫色の霧を纏い その女人のあとを 笛の音の如く 数羽の鳥が鳴き 小鼓の如く 崖より小石が 岩を打つ 波間に光る 無数の悲しみ 鎮まるか 舞う度に 扇より こぼれ落ちる 紅き花弁 ゆらゆら揺れて 鮮血 波を染める
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