きらる13

( 憧憬 )




「色吸い」  はるな

色吸いはたとえば
女のこたちのまつ毛のなかに住んでいる
彼女たちがねむたげにまばたきをするときには
世界の端の七色を
色吸いたちがひそやかになめているのだ



「光年」  南沙月

天文学者って
時間の流れが違うんだろうね

だいこん一本の値段
知っているのかな

銀河と銀河がぶつかる朝に
白い花がひらいている



「海のなかで」  優子

誰も彼もが音をたてて
かなぐり捨てる物を仕舞い込み
持っていないと首を振る
誰も彼もが気づかぬふりをして
大切に鍵を掛けたパンドラの箱
存在しないと嘯きながら
誰も彼もが失ってしまって
ありもしないのに確かにあると
空漠は埋まらず 未だ貝のなか



「みぎわ」  そらの珊瑚

おきぬけに
けとばした
つまさきから
昨日の夢が崩れ落ちていく

さらさらと

砂の城は
まるでなかったように
もろくて

引き潮のあと
打ち上げられた
さかなたち



「小景」  梅昆布茶

絶滅危惧種のような気分のときは
おもわず星を探している

頭の中が明瞭に区分けされないまま
時計の針は行ったり来たり

姿の見えない人々は
あちこちでちいさな吐息をもらす

拡散するままに
かぎりなく稀薄になってゆき
いつしか大気や風になってしまおう

がらんとした駅のホーム
電車も人もいない風景を
抱えてあるく


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