人間物語




私が生まれるまでは、空間も、その中を移動するものも無く、そのため変化するものもなかった。もちろん時間も存在していなかった。大きさなどもなく、極大といえば極大であり、極小といえば極小であった。

私が生まれる以前のことは私には分からないが、とにかく私が生まれる少し前まではほんとうに何もなかったようだ。(正確に言うならば「ない」という概念も存在していなかった。)強いて、物質の在る世界と比較すれば、「無」の世界ということになろうか。

はじめはほんの少しのゆらぎから始まった。

例えて話すならば、「無」つまり「ゼロ」がかすかに揺らぎ、ゼロより大きい部分と小さい部分の二つが生まれた。もともと「無」とは「存在がない」ということなので、この時、二つの間にあるのは「差」が在るだけだった。しかしこの時から二つの存在は互いの「差」に影響され明らかに存在しはじめていた。すなわち二つの部分の間にエネルギー差があるため、その差が二つの存在を作り出したのである。「存在は互いに存在を感じる存在同士の存在によって存在を始めた」(存在原理)

無から誕生したその二つの存在は、更にゆらぎを生み出し、周囲には連鎖反応のように瞬く間に無数の存在が出現した。そして私もその一部分として誕生した。


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