きらる9

( 私 )





『夕暮れ』 梅昆布茶/作

誰もが夕暮れには傾いて見える
家へ酒場へあるいは虚空へと

夕暮れに姿勢がいいのは
電信柱と案山子だけなのかもしれない

僕はきみに傾いてゆきたい
いつかきみの傾きとぶつかるまで



『満月』 西原真奈美/作

羽化を始める背中を
月明かりに 晒す

蒼ざめてやせた 貝殻骨
その裏側の 鎖骨

月に
捧げながら
ほんとうは
享けたいのだ

ただ 満ちて



『くるうぽう』 優子/作

十二時を知らせる時報が鳴って
繰り返される日常と 繰り返されない日常が
始まりと終わりと継続を告げる

普遍的な日々に埋没した感情と
普遍的な日々に浮き彫りにされた感傷と

引いた波は帰ってきて
押した波は帰っていって
小瓶に入れて流した手紙は届いたでしょうか

言葉にできないたくさんなことと
言葉にしかできないたくさんなことと
 
耳に慣れない音にふりかえると
かちりかちりと進む秒針
そのうえで沈黙を守るちいさなとびら

抱え込んだ抱え込みきれないものと
抱え込んだ抱え込まなくていいものと

なんとはなしにながめていると長針がくるりと一周
静寂のとびらがぱかりと開いて鳩が鳴いた
くるっぽう


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