『夕暮れ』 梅昆布茶/作 誰もが夕暮れには傾いて見える 家へ酒場へあるいは虚空へと 夕暮れに姿勢がいいのは 電信柱と案山子だけなのかもしれない 僕はきみに傾いてゆきたい いつかきみの傾きとぶつかるまで 『満月』 西原真奈美/作 羽化を始める背中を 月明かりに 晒す 蒼ざめてやせた 貝殻骨 その裏側の 鎖骨 月に 捧げながら ほんとうは 享けたいのだ ただ 満ちて 『くるうぽう』 優子/作 十二時を知らせる時報が鳴って 繰り返される日常と 繰り返されない日常が 始まりと終わりと継続を告げる 普遍的な日々に埋没した感情と 普遍的な日々に浮き彫りにされた感傷と 引いた波は帰ってきて 押した波は帰っていって 小瓶に入れて流した手紙は届いたでしょうか 言葉にできないたくさんなことと 言葉にしかできないたくさんなことと 耳に慣れない音にふりかえると かちりかちりと進む秒針 そのうえで沈黙を守るちいさなとびら 抱え込んだ抱え込みきれないものと 抱え込んだ抱え込まなくていいものと なんとはなしにながめていると長針がくるりと一周 静寂のとびらがぱかりと開いて鳩が鳴いた くるっぽう |