オンサーガーの不可逆過程の熱力学




同時に二つ以上の不可逆過程(熱伝導、電気伝導、拡散)が生じる場合に対する、一番最初に明らかに熱力学的根拠に基づいて得られた、ある関係式が一般に知られている。「W.トムソン(W.Thomson)」は1854年にペルチェ効果とトムソン効果と熱素の起電力の間の一つの関係式を導いた。「H.ヘルムホルツ(H. v Helmholtz)」は1876年に濃縮電池(concentration cells) の起電力と電解液中の一イオンの輸率との間の一つの関係式を導いた。(「W.ネルンスト(W.Nernst)」は、特別な運動学的観点から同じ関係式を導いた。)「イーストマン(Eastman)」は1926年にソレ(Soret) 効果に対する理論を公表した。

これらの理論に対して共通するものは、その証明において我々が可逆に実行できない周期過程を考えるということである。それゆえ、「トムソンの関係式」、「ヘルムホルツの関係式」、「イーストマンの関係式」は二つの熱力学法則に基礎を置くことは不可能である。このことに基づいて、トムソンの理論は、最初に「L. ボルツマン(L. Boltzmann)」によって批判された。彼は、純粋に熱力学的根拠に基づくのでは、不等式以上の関係を導くことはだれにもできないと指摘したのである。後に、「マックイネス(Mac Innes)」と「ビーティー(Beattie)」はヘルムホルツの理論に対する類似の批判を一歩先へ進めた。「イーストマン」は、彼の証明における弱点について十分に気づいていた。

通常、だれもが上述の関係式は正しいのだが十分には証明されていないと見なしていたということは明らかである。

私は、新しい根拠に基づいて、これらの関係式の十分な証明を発見したと信じるのである。私は統計的手法を使い、私の出発点を「A.アインシュタイン(A. Einstein) の揺らぎの理論」にとる。言うまでもなく、人は二つの熱力学法則に戻る必要は必ずしもないという、新しい仮定を導入しなくてはならない。もし人が熱力学の第二法則の統計的解釈を受け入れるのであれば、上述の全ての関係式は我々が知る限り正しいと思われる唯一の仮定から導出されるのである。我々は、粒子集団(しっかりとした動力学的法則に忠実に従う分子やイオンなど)として、熱力学的意味で孤立した一つの系を想像できる。もし二つの熱力学法則が実際的な帰結として導かれるのであれば、これらの動力学的法則は確かな条件を満足しなければならないということが知られている。いま我々は一つの付加的仮定を設ける、すなわち動力学で許されるどんな軌道も逆行する方向にもまた同じように運動できるという意味において、過去と未来は全く同じ基礎に立つという仮定を設ける。

よく知られているように、この仮定が正しくない場合―すなわち、外部磁場が存在し、それと同時に系が運動電荷を含む場合のあらゆる状況や、さらに人が回転座標系を使うあらゆる状況―などが存在する。

講演では、その証明の重要な部分の簡潔な記述を行う。



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