スーパーサイエンスハイスクール・数学分野の実践記




本稿は、『数学学習における「理解」の構造―低学力時代における意味と意義―(太陽書房)』の継続研究である。

現在勤務している山口県立岩国高等学校は、平成15年6月にSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定され、私はその年度の数学分野の研究開発担当となり、次の講座(全3回、1講座65分×2)を担当した。対象は平成15年入学の理数科1年次生である。

第1回:格子多角形の簡便求積法〜Pickの定理〜について(H15.9.29実施)
第2回:合同式から見た整数(H15.11.13実施)
第3回:数学学習における「理解」〜わかる、できる〜について(H16.1.8実施)

このうち、本稿に直接関係する講座は第3回であるが、それに先立ってSSH開講行事(H15.7.10)にて実施した事前アンケートT・UのうちのUおよびその改訂版(追跡調査用)であるアンケートV(H17.1.12実施)も関係している。

事前アンケートTというのは、格子点の個数で格子多角形の面積が求められるというPickの定理が推測できる例を通じて、その定理に対する興味・関心や証明しようとする意欲などを調査したアンケート(12項目、5段階の自己評価)のことで、一方、事前アンケートUは数学観や数学学習観を調査したアンケート(同)のことである。

また、第3回の講座は、数学が「わかる」ことについての理解、つまり「メタ理解」を通じて、数学学習における「理解」の質的向上や今後の学習法の改善に資することを目的に実施したものである。その展開方法は、筆者が作成した「数学が「わかる」とは?」という資料を読ませ、生徒それぞれが、これまでの数学学習法を「わかる」ことを軸にして反省し、それを基にして班別に、数学が「わかる」ことを探究するというものであり、その要点は以下の通りである。

1 「理解」とは、特に数学を「理解」するとはどのようなこと(状態、過程)であるかについての一解釈である資料を読み、「メタ理解」について学習する。
2 生徒それぞれが今までの数学学習を反省し、各自の数学学習における「理解」はどのような「理解」様式が主体であるか、また、欠如しているか、苦手であるかなどを分析する。
3 上記の1、2を基にして、5人構成の班(全8班)別に、多様な視点からの数学学習における「理解」を探究し、班としての数学「理解」観を確立する。
4 数学が「わかる」ようになるには、どのような学習法をとれば効果的であるかについても班別に探究する。つまり、単に数学が「わかる」ことが「わかる」(メタ理解)に留まらず、「わかる」ことに向けての方策についても探究する。

この探究活動の様子、実施後のアンケート分析については、第32回全国理数科教育研究大会(H16.9.27〜29)において『高校生の数学「理解」観確立に向けて―SSHにおける実践例―』というテーマで発表した。

指導助言者(文部科学省初等中等教育局教科調査官 長尾篤志氏)からは、アンケートTとアンケートUのクロス集計を行ってみるとか、生徒の変容の追跡調査を行ってみてはどうかという助言を頂いた。

そこで、「メタ理解」を学習、探究したことがその後の数学学習において役立っているか、つまり、「関係的理解」や「記述的理解」を希求する数学学習法となり、数学の成績に好影響を与えているかという学習効果の観点からクロス集計と追跡調査を実施した。

それについては、実施1年後に追跡調査アンケートV(12項目、5段階の自己評価)を行い、アンケートのポイントと実施6ヶ月後、10ヶ月後、1年後に受験した模試成績(進研模試高2生7月実施、11月実施、1月実施(ともに記述式)の全国偏差値)とのそれらの相関係数の算出という形でクロス集計を行った。

なお、本研究は単にSSHの第3回講座だけが関係しているわけではない。実際、第1、2回の講座を通じて、生徒にとっての「わかる」数学の実践を行った積りである。折角の機会なので、これらについても言及した。

また、本研究のきっかけにもなった助言を得られた第32回全国理数科教育研究大会において発表した『高校生の数学「理解」観確立に向けて―SSHにおける実践例―』と、その発表の際にプレゼンテーション用として準備したパワーポイントのスライドと発表原稿となるノートを紹介することにした。そうすることで、本研究の目的やその経緯が明白になると思われるからである。


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