コスモスは咲く、必ず咲く




 本校の卒業式は、すごく長く二時間近くかかります。
 女生徒が多く、トイレなど心配なのですが朝早くから職員がジェットヒーターを何台も体育館で炊いてくれます。
 卒業式は儀式ですから式そのものは他校と変わらず淡々と進められていきます。普通は、開式の辞、国歌斉唱、校歌斉唱、卒業証書授与、式辞、来賓祝辞、送辞、答辞、保護者謝辞、式歌斉唱、閉式の辞で終了となります。
 本校の場合、卒業生入場の後に吹奏楽による記念演奏があります。またその後も、国歌斉唱、校歌斉唱、式歌斉唱は吹奏楽が伴奏します。生伴奏は良いものです。
 音楽は三年時に週一回あるだけなので歌唱指導は大変です。何回も練習して本番を迎えます。国歌、校歌は良いのですが式歌は歌詞が難しいため声があまり出ません。しかし本番では生徒みんなが良い式にしようという意識があり、とても大きな声で素晴しい式歌となりました。
 淡々と式は進み、閉式の辞のあとは、卒業生退場です。
 まず、三年七組の生徒が全員起立し、大きな声で担任に自分たちで考えた感謝の言葉を発します。そして一人一人、退場して行くのです。椅子の上に全員が立ち上がって感謝の言葉を発しているクラスもありました。
 良い光景だなあと思いました。生徒が自由に伸び伸びとしている姿は良いものです。
 何クラスか退場したあと、私と教頭、事務局長、事務長の学校代表は壇上の向かって右側の席に座っているのですがその前のクラスの退場が始まりました。
 すると生徒が私の前を通過するときに私に向かって、
「校長先生ありがとう」と言って手を振るではありませんか。
 私も躊躇なく、その生徒に手を振りました。そうすると次から次へと生徒がみんな私の前を通るときに手を振ってくれたのでした。ついに涙腺が緩んで涙が頬を伝ってきてしまいました。もう、格好なんかどうでも良いと思いハンカチで涙を拭きながら生徒に手を振り続けたのです。
「ああ、なんて可愛い生徒たちなのだろう」と胸が熱くなってきました。
 そして最後の一人が手を振るのを止めるまで、私は片手では間に合わないので両方の手を振り続けたのでした。
 生徒が退場すると今度は来賓退場です。
 私が来賓を先導して退場する時に保護者席の前で、
「卒業おめでとうございます。三年間ありがとうございました」と深々と頭を下げました。
 そうしたら何人もの保護者が私のところに歩み寄って来て、
「最高に感動した卒業式でした」「素晴しい卒業式でした」と私に握手を求めてきたのです。
 私も感極まって涙が出て止まりませんでした。
 教頭先生も何十回も卒業式を経験していますが、こんな卒業式は初めてで感動しましたと話してくれました。
 来賓の皆様にも「生徒が校長先生に手を振り、校長が生徒に手を振る卒業式を初めて見た」、「生徒と校長の信頼関係が目に見えるようです」と感動してもらえたようです。
 卒業式後、一時間ほどして、私は卒業式と同じ燕尾服姿で三年の各クラスに顔を出すようにしていました。
 生徒と一緒に写真を撮り、アルバムに寄せ書きをするのです。毎年、式辞で述べたことを寄せ書きしています。
 三年目は、『No excuse.(言い訳するな)& Never give up.(決してあきらめるな)by校長 福田一男』と書かせてもらいました。
 一時間くらいして校長室に戻ると、また卒業生が何人も校長室に来ます。さきほど一緒に写真が撮れず寄せ書きを書いてもらえなかった生徒が来るのです。
 なかには手紙を持って来てくれた生徒、読んで下さいと本を持って来てくれる生徒もいました。お昼ごはんは、やっと三時に食べることが出来ました。
 幸せを噛みしめながら昼食をいただいたのでした。


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