The Second Law of Thermodynamics and Wave Mechanics

熱力学第二法則と波動力学(英語版)



データ

著者 翻訳 作品の分類 ページ数
渡辺慧 井口和基 物理学 108

書籍サイズ 定価(税込) ISBN
A5 2,200 978-4-86420-302-9




概要
『熱力学第二法則と波動力学』の英語版。

本書のもととなる論文は、渡辺慧(わたなべ・さとし)博士によってフランス語で執筆された。フォン・ノイマンのH-定理の証明を最初に成し遂げた論文である。このH-定理は、ニュートン方程式で記述される古典力学と同様に、量子力学においても物理法則の時間反転に対する可逆性が保証されている。物理法則は、量子力学・古典物理学を問わず、その向きを逆転した運動も可能である。ところが、現実はそれとは異なる。時間は必ず一方向へと流れ、元へは戻らない。熱力学においても同様に、熱は温度の高い方から低い方へ流れるのみであり、逆転現象が起こることはない。これがエントロピー増大の法則、すなわち熱力学第二法則である。

この法則を、量子力学の基礎概念だけを使って証明するのがフォン・ノイマンのH-定理であった。しかしながら、フォン・ノイマンの証明には不明な仮説がいくつかなされており、万人の納得するものではなかった。これを正しく量子力学の基本概念だけを使って導いたのが渡辺慧の論文(本書)である。その際、エントロピーの概念を量子力学の言葉のみで定義した。従来、このエントロピーはボルツマンの定義(S=klog W)によるが、この定義を用いず、量子力学系のヒルベルト空間の次元数sで定義することを渡辺慧は提唱したのだった。本書にあるルイ・ド・ブロイの序文は、実にこのことを語っている。

この渡辺慧の研究がもとになり、我が国の伏見康治により量子統計力学という分野が大きく花開くこととなる(伏見康治著「量子統計力学」(共立出版、1967)など)。伏見と渡辺は東大時代の同級生であった。量子統計力学は後に物性理論の土台となる。この理論をもとに我々が近代物性理論と呼ばれるもののすべてが構築されることとなる(ボーズ=アインシュタイン凝縮理論、超伝導BCS理論、場の量子論、固体物理学、半導体物理学、量子光学など)。これらはすべて量子統計理論の上に作られた。しかし、これらは系が孤立した場合の平衡系の量子統計力学に過ぎなかった。ところが、渡辺慧の理論には、非平衡系の場合への基礎づけも行われているのだった。あるいは、そういう未知の系に対してもヒントとなるような概念が定義されていた。現在、渡辺慧が予見していた非平衡統計力学が脚光を浴びている(沙川貴大著「非平衡統計力学」(共立出版、2022)など)。こうした現代物理学の最前線として活発に研究されている分野を、はるか昔(1935年)に人知れず行っていたのが渡辺慧という物理学者であった。


目次
第1章 序論
1.1 概要
1.2 古典力学と新力学におけるH-定理の歴史
1.3 カラテオドリの熱力学

第2章 波動力学のいくつかの統計的公式の覚書
2.1 同じ状態にある系のアンサンブル
2.2 異なる状態の系のアンサンブル
2.3 演算子のトレース
2.4 統計演算子のいくつかの性質
2.5 射影演算子

第3章 巨視的測度と熱力学的状態
3.1 巨視的な量
3.2 巨視的状態
3.3 熱力学的状態と熱力学的空間

第4章 断熱変化に対する熱力学的な基準
4.1 熱力学的因果関係の定理
4.2 波動力学の言葉による断熱変化
4.3 断熱変化に対する熱力学的な基準

第5章 断熱-準静的変化
5.1 断熱的-準安定的変化の量子論的解釈
5.2 断熱-準安定対応における多重度次元数の不変性
5.3 断熱的-準安定的変化と熱力学的基準
5.4 熱力学的状態GのアンサンブルSとその性質

第6章 エントロピーの存在. 熱力学第二法則の第一部
6.1 巨視的エネルギー
6.2 断熱-準安定変化の一意性定理
6.3 古典熱力学におけるカラテオドリーの定理の第1の部分
6.4 カラテオドリーの定理と一意性定理の等価性
6.5 パラメータが1つの場合の注意点

第7章 力学的可逆性
7.1 実ハミルトニアンを持つ波動力学の可逆性
7.2 ディラックの力学の可逆性

第8章 非静的断熱変化
8.1 非断熱-準静的変化に関する一般論
8.2 非断熱-準静的変化の特徴的な特性
8.3 非静的断熱的対応における次元数の変化
8.4 非静的な断熱変化と熱力学的基準. 不可逆性

第9章 断熱的に孤立した系のエントロピー増大
9.1 問題の位置づけ
9.2 第二定理の後半部分の我々の主張
9.3 微視的な可能性と熱力学的な不可能性. 系のエントロピーの減衰

第10章 エントロピーの定義の一般化. H-定理の言語による証明
10.1 エントロピーの最初の定義に対する批判
10.2 エントロピーの定義の一般化
10.3 H-定理と古典的エルゴード定理
10.4 ミクロカノニカル・アンサンブル
10.5 我々の言語によるH-定理の表現
10.6 パウリの要素混乱仮説

第11章 ボース統計, フェルミ統計, およびアラード統計
11.1 透熱性接触にある系
11.2 温度
11.3 同一粒子からなる系
11.4 ボーズ, フェルミ, アラードの平衡条件

第12章 文献
12.1 カラテオドリの熱力学
12.2 量子統計力学
12.3 古典統計力学(特に重要な著作のみ引用)
12.4 各種



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