角田山百楽



データ

著者 翻訳者 作品の分類 ページ数
山田弘明 地誌/物理学 192

書籍サイズ 定価(税込) ISBN
A5 2,640 978-4-86420-251-0




概要
角田山界隈の生物や地質、様々な自然現象を物理学的に解明した異色のエッセイ!

新潟県新潟市西蒲区にある角田山(481.7m)は、弥彦村と長岡市の境界に位置する弥彦山(634m) などとともに佐渡弥彦米山国定公園を構成する山である。著者は、国上山~弥彦山~多宝山~角田山と連なる角田・弥彦山塊のいずれかに年間30~40回ほど登っている。さらに、自宅のある新潟市から実家のある出雲崎町に行くため、これらの山々の海側を通るシーサイドラインや平野側の広域農道も年に50回ほど車で往復しているが、それでも毎回、新たな発見があるものだ。また、角田山自体も7つの公式コースを含め30以上の細かなコースがあり、四季を通して回り切れないくらい多様な姿を味わうことができる。

本書では、角田山を登りながら個人的に感じたこと、思ったことを、特に、物理学、数学から書きとめたものである。角田山に関する出版物は既にたくさんあるが、多くの場合、山に関する本は景色、地形、花などの写真付きの記事が主のようだ。その他、地質学的、生物学的要素、また生活文化的要素に関するものも多い。ホームページやブログも山のコースや季節の花々に関するものが殆どである。そこで、逆に少し偏った物理学の視点を縦軸として、角田山という横軸との交点のいくつかを表現することを試みたものである。

隣同士の山であるが、全く異なる様子の弥彦山や多宝山、国上山に関することも含め、角田山と関連の深い周辺の海、潟、砂丘も含む様々なことがらを書き連ねている。

かつての信濃川は柏崎から河口の新潟まで角田・弥彦山塊でせき止められ、大雨のときなどはなかなか水が抜けなかった。現在は2つの分水や樋曽隧道などで水を抜き、安定した越後平野を形成している。大正2年に完成した大河津分水(海岸吐口180メートルの人工河川で、新信濃川とも呼ばれる) の完成後、蒲原平野部の人々は氾濫による大きな被害から解放された。一方、それは海流を変え、角海浜を初め沿岸の浸食をひき起こし、今日に至る。現在、大河津分水はさらなる河口拡張のため、大規模な工事の最中である。

第Ⅰ部では、特に生物や地質について、物理や数学を交えつつ、力学的な内容を話題の中心とする。たとえば、摩擦という身近で当たり前な現象についてだけでも、考えさせられることがいかに多いことか。既に20年近く前になるが、著者は工学部で機械工学科1 年生を対象に力学の講義を担当したことがある。そのときは、摩擦とは仕事の一部が熱となり失われるエネルギーであるとして、通り一遍的な力学的エネルギー保存則などの内容しか紹介していなかった。今思えば、摩擦が絡む日常での様々な現象を用いれば学生には興味深かったのではないか。

第Ⅱ部では、熱物理学や流体物理学的視点から角田山界隈で観たことなどを整理しておくものである。そこには、農耕文化など生活に関わる事柄の物理も含む。特に、「周辺に広がる潟や海岸での生活」「流体力学を用いた円筒型分水工による農耕の発達」など見ていく。その他に、「転波列」「海の静振」「ヒートポンプ」なども考察する。式を無視しても良いように、できるだけ式は付録に整理した。

学問の分野は人間の都合で勝手に仕分けしているが、すべての事物は計り知れない多様性のある複雑系そのものである。山一つ、石一つ、草一本、すべてそうである。どんな小さな山でもコース、季節や時間が異なるだけで多様な表情があり興味深く、ありがたいものである(一山百楽)。


目次

第Ⅰ部 力学的視点から

第1章 序
1.1 どんな山か
1.2 災害との関係
1.3 山頂からの風景
1.4 山登りの大変さ:斜度
1.5 水平線の見積もり
1.6 山の勾配
1.7 粒体について
1.8 物理の原理:力学
参考文献

第2章 角田山周辺の生物
2.1 アリジゴクの安息角
2.2 アメンボの力学
2.3 ハンミョウの速さ
2.4 クモの糸と張力
2.5 斜面に咲くカタクリの花
2.6 ブナ林など

第3章 摩擦という現象
3.1 摩擦
3.2 砂と水と摩擦
3.3 斜面と摩擦
3.4 梯子を上ることの考察
3.5 アモントン・クーロンの法則
3.6 ころがり摩擦
3.7 自動車の運動
参考文献

第4章 人の動き
4.1 安定な状態(バランス)
4.2 ジャンプの力学
4.3 歩くペース
4.4 歩く・走るの力学
参考文献

第Ⅱ部 熱力学・流体力学的視点から

第5章 流体力学的視点から
5.1 円筒分水の有効性
5.2 火焔型土器の渦は火焔なのか
5.3 グラスの中の転波列
5.4 紙風船
5.5 離岸流の挙動
5.6 静振測定
5.7 血液の流れ

第6章 熱力学的視点から
6.1 はじめに
6.2 体からの放熱(熱損失)
6.3 地熱利用
6.4 バッテリーの減り具合
6.5 山ノ神
参考文献

付録A 表面張力
A.1 表面張力とは
A.2 LB膜

付録B エネルギー代謝
B.1 エネルギー代謝の法則
B.2 クライバーの法則

付録C 関数の勾配
C.1 勾配の定義
C.2 勾配の意味

付録D 摩擦について
D.1 梯子を上ることの考察2
D.2 冬の坂道での車の後進
D.3 滑車の実験

付録E 落下の運動の終端速度
E.1 終端速度
E.2 終端速度の途中の計算
E.3 終端速度の実験

付録F 撃力の式

付録G 流体力学の基礎
G.1 はじめに
G.2 流れと渦
G.3 層流と乱流
G.4 ベルヌーイの定理
G.5 ベルヌーイの定理の例:揚力
G.6 ベルヌーイの定理の例:トリチェリーの原理
G.7 ベルヌーイの定理の例:サイフォンの原理
G.8 ハーゲン・ポアズイユの法則
G.9 液体と粉体の違い
G.10 ローレンツ方程式

付録H 熱力学の基礎
H.1 熱力学の基本法則
H.2 カルノーサイクル
H.3 熱移動の基本
H.4 様々な物理量の温度依存性:抵抗率、粘性、音速
H.5 他の熱機関など

索引


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