音楽はカリヨンで




【午前三時のお客さま】

午前三時に目覚めた日曜日
ふと 窓を開けてみると
夜風が彷徨いこんで来た
夜風が転がりこんで来た
とっても淋しそうにしていたので
お湯を沸かして 何か
ご馳走しなくては、と
黄色い紅茶の缶を手に取った
三月も半ばのことで
優しい言葉を話す夜風だった
ミルクティーがいいと云うので
うんと甘いのが飲みたいと云うので
そのとおりに作ってあげた
早春の、内気そうな
午前三時のお客さまだった



【朝猫】

雨夜の徘徊にすっかり疲れ果てた朝猫が
それでもおなかは満ち足りて
いつもの場所へと辿り着いた
神が このひとつの小さないきものを哀れんだのか
今朝はまばゆい陽光を与え賜うた
――同情(なさけ)
優しきものよ
感謝を知らぬ子猫であっても 何かを感じて空を見上げた
彼女に降り注ぐ
彼女に舞い降りてくる
或る 見えぬ存在(もの)が そっと
そっと
彼女に向かって
微笑んだ



【貝の殻】

いったいこの星が始まって以来
幾つの貝の殻を砂浜に飾ったのだろう
打ち寄せる波は
今日もほら
営みは変わらず
寄せては返す
土産を置いて
子どももおとなも美しいものを愛するから
美しい貝の殻は拾われてビンの中
ときには洒落た店の陳列棚で
首からかけるものとしてあるいは腕につけるものとして
貝の殻
貝の殻
淋しくないのか貝の殻
ふるさと海原恋しくて
本当は涙に暮れてはいないか



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