天蚕(てんさん)




ひとかげもなき砂山にゆく秋のゆふべの海の高鳴るをきく


天主堂のステンドグラスに朝の光一条入りて蝉の声する


藍深き小千谷縮につゝまれし師の声若し歌会の午後


昨夜よりの頭痛はいまだ残れるを厨に立ちてみそ汁を煮る


灰色のは裏を見する蓮の葉の茎折れしままに秋雨の降る


秋桜ここ信濃路の街道にゆるるを見つつ出湯に向かふ


入学祝と贈りし赤きランドセル背負ひ来て千絵美はくるりと廻る


とめどなき饒舌つづく媼二人ランチタイムの食堂の隅


短歌ごころ涌きたるときに記したり君より賜びし短歌手帳に


金婚まであと一年と朝の茶を飲みてつぶやく寡黙の夫は


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