弟のノート集




「おじさん、これは米栽培したのですか?」
 ギアを二段に折りながら二十代の小型トラックの運転手はジロリと私の横顔を覗き込んだ。いくら考えても私が農作業をする人のように見えなかったようだった。また商売人でも、米を買っていく人でもない人と映ったようだった。いわばとても道通した機能的な運転手だった。
「いや、なぜそんなことを尋ねますか?」
 私は直接農作業をしない米という言葉を話しても構わないが、運転手のトゲのある問いと疑惑に対して一抹の抵抗を感じた。それで、からかってやろうと話題を変えたりした。この頃は田舎まで見慣れない人を徹底して不信して疑った。もしかしたらよく訓練された銀色の猟犬のように見慣れない人とかおかしな気配が見られれば遅滞なしに支署や軍部隊に申告したりした。
「いいえ、ただ尋ねたくて……」
 運転手は自分の下心を示したように悲しく褐色の筋肉のあごを手袋をはめた左手で摩った。
「温水里が故郷でしょうか?」
「いや」
 私は短く切った。故郷という言葉が出てくれば、私は巨大な獣の舌が着くように全身に鳥肌が立って、やがてその幻想は狂うように憐憫を呼び起こす痛みがあった。それで故郷がどこかと尋ねる場合には忠清道瑞山だといい逃れたりした。
「明らかにおじさんは何か隠している人のようです。私はどうも怪しいところがあり、烏山まで行くなと思ったが、仕方なく行くには行くが何かが異常です」
 運転手はいつか泥棒の妻の荷物を積んであげて、警察署に引きずられていって大変だった話を長く並べた。私はわざわざ、
「この人、たくさん持った人のものをちょっと分け合うことが悪いのか?」
「そのような言葉は止めてください。では私は行きません」
 運転手がブレーキを勢いよく踏んで、私の顔を正面から眺めた。ポケットからジャックナイフでも取り出そうとするようにビクッとする姿勢だった。私がニヤッと笑った。そして、安心しろというようにポケットから住民登録証を出して示した。
「そうだ、おじさんは怖がらせる。僕は泥棒を載せていくものと思ってひかがみが痺れたが……」
 運転手はフフッと笑ってまた始動をかけて、『倹丹検問所』に向かって徐々に通過する表情が伺えた。仁川近海はすっかり周囲が血の色よりさらに濃い夕焼けを作った。夕焼けで染ったの中のあちらの仁川湾側に真鴨の群が猟師の銃声に驚いたように群れて飛翔していた。ちょうど私の幼い日、無差別に発射する共産党の銃を避けて逃げた村の人々のように……。
「おじさんは烏山で米商売をしていますか? 米商売ではないようでもあるが……」
「正しい。僕は米商売ではない。ところで、僕は何のようかな?」
「泥棒ではさらになく、かといって商人でもなくて、そうだな、分かりにくいです」
 私は笑いながら温水里の人が米をくれて持っていくのだという話をした。誰かがくれて持っていくという言葉は真実な私の告白だった。いや、ただくれたのではなくて、私たちの土地で小作した米をくれたというのが最も正確な表現になるだろう。この米は怨恨の死を迎えたお父さんが残した小作地で収穫されたものだった。こういう悲劇的な生活を送ってきた私、そして、くやしい濡れ衣を着せられて死んだ姑の死を知らない妻はあたかも空から米五窯が落ちたように喜んで、どうすることもできない姿が目の前に鮮烈に浮かび上がった。
 私たちは水仁産業道路に入る前に車を止めて、コスモスが列を成した新作路辺に排泄をした。運転手が綺麗な小川の早瀬を流れる水で手を洗う間に、私は薬局に立ち寄ってバッカス二本と疲労回復剤二粒を買って自動車の横に駆けつけた。二時間も疾走してきた小型トラックもちょっと休ませなければならなかった。バッカスを錠剤の薬と共に呑み込んでしまった運転手は出っ歯を表しながら話した。
「この頃、人の心が優しいですね。米窯もくれて。目や鼻を切って食べる世の中だといっていたが!」
「人によって違うだろう……」
「そういえば、そうです」
 私は自動車に上がって横たわっている米窯をまとめながら、お父さんの霊魂が生きて息をしているようで胸に心苦しい衝撃が感じられた。
「さあ、行きましょう。早く行ってきてこそキムチの材料を載せてソウルまで行けるでしょう」
 運転手は急ぐ姿で車に乗った。



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