レッシー




 空はあつい雲におおわれ、冷たい北風が吹き荒れている。
 春はまだかな?

 一人の少年が宙(そら)を見つめた。水色の空よりも、もっと高い宙。そこには果てしない大宇宙が広がる。うんと高い宇宙に向って自分を奏(かな)でる子になるようにと、願いを込めた名前を持つ男の子。優しい子供にと両親の願いを込めて命名された。
 その名は宙奏(そらか)。

 どうしようかなぁ〜。 お母さんがお早ようのキスをしに来るまで、こうしていてもいいけど。だけど昨日は起こされる前にキッチンに入って行ったら、おりこうさんねって抱きしめてくれたしな。キスはなかったけど。 迷うなあ。
 宙奏は、スヤスヤ夢の中、ふかふかのお布団に包まってまん丸くなってうずくまっている。曲げた左足をゆっくりと伸ばした。宙奏の左足は、生まれつき筋肉が麻痺して動かない。だが、ハイハイで動き回る時も右足や両手を上手に使った。
 1歳を過ぎて一人だけで立てた日は、お母さんもお父さんも、大きく拍手をして喜んだ。月日が流れ、そんな宙奏も大きくなっていった。がんばり屋さんの宙奏は1年生になった時に、一階から二階の一人部屋に引っ越していた。
 あれっ! 今朝からみんながそわそわしているぞ!
 そう。今日は、宙奏が小学生になって初めての誕生日です。宙奏は、信じています。大人になってお誕生日にお姫様を見つけ出してキスをすれば、魔女の呪いがとけて足が治るって。みんなと一緒に、なわとびも、オニごっこも出来るようになると…

「さあ、起きよー、10・9・8・・・3・2・1・0!」
 宙奏は布団をはねのけた。けれど、ベッドから下りるのは時間がかかる。まず右足を下ろしてスリッパをはいてから左足を手で下ろした。立っている時は左足に力を入れやすいが、座っている時はウンと意識を使わないと、素早く左足が自由に動かせない。
 おや? どうしたのだろう? 宙奏が床を見て顔をしかめている。
 チェッ、このスリッパは6才のままじゃないか。僕はもう7才だ! 新しいのが必要だ。うん、絶対に必要だ! 昨日、おふろから出た時はちゃんと新しいパジャマがあったのにな。どうして昨日と同じスリッパがここにあるんだろう。お母さんなのにどうしてかなあ。
 心でそうつぶやきながら、左足にもポケモンスリッパをはく。時間がかかっても宙奏はがんばる。
「フウ〜」
 普通の子供が簡単に出きることでも、宙奏にとっては大仕事! 今日も机の椅子を引くと、後ろ向きに座った。背もたれを持って目を閉じた。
 さあ、出発だ!


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