数学教育講話T




学力低下,理数離れ,算数・数学嫌い・・・これらは,教育が抱える問題の一面ではあるが,現教育課程について言及するとき,また国際的な学力検査の成績が報告される度に,ことさら問題にされる。日本の子どもは国際的に見て成績の割には算数・数学が嫌いであるといわれているが,ここ最近ではその成績にも翳りが出始めている。興味・関心の薄さ,学習意欲の低下,家庭での勉強時間減少などとともに,科学技術立国としての根底を揺るがす国家的な問題となっている。原因はさまざまあろうが,「わからない」「おもしろくない」「努力しない」「残らない」などの「ないない尽くし」によるところが大きいと考えられる。その中でも最大の原因は「わからない」ことではないかと思われる。

授業時間の減少、学習内容の浅薄化および大学入試の第一関門であるセンター試験のマーク式という解答様式は、この「わからない」を助長している。

実際、記述式では手野でないような中途半端なわかり方しかしていない生徒でも,マーク式ではそれなりに解答すべき空欄を埋めることはでき,しかもそれなりの点数が出せる。マーク式の数学導入前世代の私にとっては、四半世紀にわたって実施されているこの「マーク式数学」の弊害,つまり論理・数学的に正確に記述することを放棄させる弊害を看過すべきではないと力説したい。

算数・数学教育は何のためにあるのか? その目標達成のためにはどのようなコンセプトを持ち,日々の実践を行えばよいのか? 算数・数学教育に携わる者は,このことを真摯に追究しなければならない。「できる」ことだけでも「わかる」ことだけでも不十分であり,興味,関心,態度,思考,判断,技能,表現,知識,理解といったことを算数・数学教育を通じて総合的に育成しなければならないが,「マーク式数学」に躍起になっている生徒には特化した思考,判断,技能,知識しか育成できない危険性がある。歪められた目標に,本来希求されている数学力は身に付きにくい。

「わかる(関係的理解)」「おもしろい(興味・関心・知的好奇心)」「努力」「残る(定着)」「できる(記述的理解)」が一体になった算数・数学教育の実践が肝要である。これが私の数学教育理念である。



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