アメリカのレイオフ




十月十九日、金曜日はよく晴れていた。既に紅葉が始まっており、晴れた夜を過ごすと、一度に紅葉の度が高まってくるのである。

山本のテストマシンの方は、今日は動くようになる、今日は動くようになるとトニー・クロスより希望的な連絡を受けながら、結局この一週間、山本は騙されてきたことになる。

トニーが決して手を抜いているようには見えなかったが、予期せぬソフト、ハードのトラブルが発生して、未だに使用可能とはなっていなかった。止むを得ず山本は、時間を区切ってラボの方へ行き、sushiシステムでオペレーションに慣れるように努めた。飽くまで、テストを中心で行うのは永山であると言うことをはっきり示す意味でも、既に使用できるninjaは永山が使用するようにした。山本は、永山のテスト結果を判断して、その取扱いについてザイサイト側と交渉を行うことが自分の本来の仕事と考えていた。カナ漢字変換の日本語入力のオペレーションであるから、ユーザーの立場からテスト使用を行うことにより、開発された機能の評価を行うことが本来の自分の仕事とも山本は考えていた。

山本は、今日もネクタイを締めたままザイサイトのオフィスに入った。

昨晩トニーが言い残した言葉を忘れていた訳ではなかった。習慣だった。ネクタイをしないで仕事の場に望むのは、何となく落ち着かないのである。永山は、正直にジーンズにアロハシャツの出で立ちだった。意識して周囲を見ると、ほとんどがカジュアルシャツを着ており、ネクタイを締めている者はいなかった。技術者は、大抵ジーンズを穿いていた。流石、外出を予定した営業マンは背広姿で、ネクタイだけは首から外していた。それを見ながら自分たちのオフィスまでたどり着くと、山本も自ずからネクタイだけは首から外さざるを得なくなった。

週末を控えての普段着の解放感。社員にとって、ある意味では実際の週末より楽しいものであるかも知れない。それをよく察知したノー・タイ・デイの実施である。


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