恋の諸相




「どうも、有り難うございました」
 私が扉を開けて出て行くや、彼女は待ち受けていて、そう私に言った。彼女は階段を一段踏み下りていて、こちらに顔を見上げるように向けて、礼を述べたのだった。私は、そういう姿勢の彼女を可愛いと思った。もっと彼女の心に突っ込んで行ける言葉はないのか。これで終わってしまったら、敗北感のみが残ってしまう。何とかならないものか。
「僕の方は、どうもまだあなたの考えがよく理解できません。あなたは僕の考えが分かりましたか?」
「私の方は、分かりましたわ」
 どうしてそんな自信過剰なことが言えるのか?
「その時によって全然違うように受け取られることがありますから、一度かぎりの話合いでは、本当のことはなかなか分からないと思いますよ。簡単に分かったと思うのは、危険だと思います」
「そうですわね。でも、大体のことは分かりますわ」
 彼女は、私という人間をどのように分かったというのか?
「僕のほうは、どうもよく分からない。あなたと何処が違っているのか、さっぱり分からない。キリスト教と仏教の違いなのですかねえ?」
「そうですわね。やはり、違うところがありますわね」
 私は、そんな違いを認めたくはない。何を言えば同じところに持ってこられるのか? 私は、何よりもこの女性を自分のものにしたいのだ。キリスト教と仏教の違いなど、問題にはしていないのだ。
「教会にきている人は、皆あなたと同じような考え方をしているのですか?」
 この女性が思っている男性がいるのか、それを先ず明らかにしておきたい。心が苦しくなるけれども、仕方がない。
「いいえ、いろいろな人がおりますわ」
「同じキリスト教を信じていても、やはり皆、それぞれ信じ方が違うというのですか?」
「そうですわよ。人それぞれ、その人の理解に応じた考え方をしておりますわ」
「それじゃあ、あなたと同じ考え方をしている人もおりますか?」
「ええ、極めて少ないですけど、おりますわ」
「男の友達ですか?」
 私は、この質問がしたかったのだ。
「いいえ、同性ですわ。私よりも六つも年上の方よ。いつ会いに行っても、ギブアンドテイクで、お互いに貴重なものを与えられますわ。そういうお友達のいない男の人は、魅力がありませんことよ」
 私のことを言おうとしているのか? 間接的な拒絶の言葉なのか?


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