悲しみの紋様




あなた
いますぐ帰って来ても大丈夫
何も変わっていないもの
あなたが座る卓(テーブル)に
あなたがいないだけだもの
玄関には靴とサンダル
テーブルにはタバコと灰皿
洗面所には歯ブラシも髭剃りも
二階の部屋には
お気に入りの着古したジャンバー
愛読書の新平家物語や三国志が
冷蔵庫にはキリンのラガー
黄桜呑だって一ケース買ったままじゃない
あなたが必要な物
全部そのまま揃ってる
荒れた庭は淋しいけれど
わたしも痩せてやつれているけれど
いますぐ帰って来てほしい
何も変わっていないから



あなた
匂いますか
金木犀の花が咲きました
今朝二枝を折り
あなたに供えました

あなたが好きだった金木犀
この家と共に育って15年
ずいぶん大きくなりました
この花の
むせ返るほどの芳香が
辺りを包む頃
秋はもうたけなわ
この時期になると
麦藁帽子をかぶり
長靴を履いて
庭仕事に精を出していたあなた
木々の剪定や
草取りに芝刈り
消毒に施肥
煙草を吸いながら
自分の剪定した木々を眺め
首をかしげたり
満足そうにうなずいたりしていたあなた
そんなあなたが
何処かから
不意に出てくるようで
わたしは今日も庭に佇ち
あなたを探している


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