SEASONS 2017 Summer




「麦わら帽子」 ミチタリル


夏木立に住まう
無人駅の古びた椅子で
わたしはひとり 憩んでいます

時折
朽ちかけた壁の隙間から

眩い光が零れたり
おどけてみたりするものだから
つい うとうとしてしまいます

もう わたしのことなど
忘れてしまったのでしょう、と
夢現に あなたを待つよりも

稀に吹く 隧道からの風に乗り
一緒に 飛んでしまおうと
心に決めました

そのまま わたしは光の中へ
恍惚と 旅立つのです

次の列車で. . .


「風姿水伝」 水村健治


その風を得て
水より水を伝わりて
能面をつけた女人
波の上を舞いながら
やってくる

  水の化身
  淡い紫色の霧を纏い
  その女人のあとを

   笛の音の如く
   数羽の鳥が鳴き

   小鼓の如く
   崖より小石が
   岩を打つ

波間に光る
無数の悲しみ
鎮まるか

  舞う度に
  扇より
  こぼれ落ちる
  紅き花弁

  ゆらゆら揺れて
  鮮血
  波を染める




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