きらる15

( UNKNOWN )




「さよなら」  邑輝唯史

さよなら
と言いながらつむじ風
くるりと巻いて
さよなら
ともう一度

こんにちは
とは言わないで
何度も
何度も
さよなら

止まらない銀河鉄道
開かない窓からアンドロメダ星雲

今日もありがとう
遅いから
さよならね
と言いながら
いつまでも途切れない
さよなら



「さよならと云いたい夜」  蒼風薫

さよなら
と云いたい夜には
詩だけに
居てほしい

さよなら
と告げたい時には
詩には
居てほしくない

君には
告げたくはない
君にも 告げたくはない

さよなら
と云いたいけれど
告げたい わけじゃない夜



「さよならなんて云えないよ」  草野春心

物陰にひそんでいる、一頭の
動きののろい獣をみつめるみたいに
流れているのだろうか、ぼくにとって
あの時間もこの時間もどの時間も?

不揃いの靴たちの
せつない臭いは悪ふざけ
嗄れたレインコートを棚において
それでもあなたは閾をまたいで
この部屋へ入ってこないで

どこか遠くでしらないうちに
降っていた薄気味悪い雨にぬれ
あなたはそこに立ち尽くしていて
話をはじめないで 硝子戸のそばで
写真立の前で 瓶差しの花のうしろで
ぼくにむかって うつくしくわらって
さよならなんて云わないで



「28歳」  はるな

ブライアン
ジャニス
カート

みんな年下に
なってしまった

ジミヘン
シド
ジム

みんな年下になってしまったけど

生きてることを
馬鹿にすんなよ

死ぬやつは
死なせておけばいい

まだ生きてるってことは
恥ずかしいことじゃない



「さいてい」  ごくろう君

どうしてそんな無茶ばかりするんだ と
あなたに責められることをゆめみている
あなたの腕の中で 苦しい息の中で
あなたが優しくあたしを責めるのを

どうしてかなんて バカ
そんなの決まっているじゃない
あなたのことが好きだからよ
あなたのことを愛しているからよ

そして

あなたの涙を頬にうけとめながら
あたし こときれるふりをするのよ

そのときあなたがホッとした顔をするのかどうか
薄目を開けてみてみたいから
あたしそういうことするの平気よ



「たんぽぽ草紙」  そらの珊瑚

親心を
揺らしながら
春の野に立ち尽くしている茎の群れ

子どもらは
既に
旅立って
再び逢うことは
叶わないというのに
心配の種は尽きないのでしょう

親心を
揺らしながら
じっと耳を澄ませている花の跡

綿毛らが
ふわりと着地する
足音を
風が運んでくるのを
聞くまでは
心安まることはないのでしょう

そうして
やっと思い出すのです
自分もかつて
そんな親心に見送られて
遠いこの地に旅立ってきたことを

ここは
なんて静かでしょうか
大切なことだけを
謳っている

祈りが満ちて
ほのあたたかい

たんぽぽの花の季節は
終わります


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