SEASONS 2015 Winter




「最近」 by まじきのびろ


底ばかり覗き込むのに
飽いて

今度は空ばかり
眺めておりました

人も草木も花々も
その間にしか存在しないというのに

あたしはいつしか隙間に落ちてしまったのかもしれません

今は空も見えません
底だけが黒々と口を開けているばかり

もう飽いた
底にはそこしかない
それ以外なんにもありゃしない


「あのとき」 by 高橋英夫


あのときは夕ぐれどきだったのです。
買物からの帰りしなだったのです。
わが家に向かう峠を下りかけたとき、
「これより小鹿野」の地名ならぬ
大きな鹿がいきなり
オレの車にとび込んで来たのです。
オレの車の破損は少しですんだのですがー
損害賠償をしたかったのですがー
予定外の出費でオレも痛かったが
鹿もからだが痛かったと思います。
オレには何の落度がないと思ったけれど
鹿もとんだ災難だったと思い
見積書だの請求書だのは
あきらめることにしたのです。
それより鹿のその後が
気がかりだったのです。
林の中では鹿を治療してくれる所は
なかったと思います。
おまえはいくどか横転したあと
闇の中、斜面をいっきにかけ上がりました。
オレは今度から気をつけろいなと
声をかけようとしていたのです。



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