きらる12

( サンクチュアリ )





「フラワーマーケット」  宇野流

バラを一輪
手にとろうとして

となりの人と
指がふれる

ゆずりあいのトゲがささる



「旅立つということについて」  小林青ヰ

ひがなゆくうつろいの
かべにたゆたう灯ろうのかげは
知らずに通りすぎる道のおもかげに
似ていた

あさひの昇る日である
ぼくたちは心ならずも死んでゆく
くびにあらなわをまいて
生きることに急いた



「おにごっこ」  優子

夢のなかで追いかけっこ
おにさんこちら
ての
鳴る
ほうへ

おいで


(ほら
 いつだって
 みえないだれかと
 つながっている

 こわいこわい)



「ばなな電話」  南沙月

ばななを耳にあてて
話しかけてみる

ばかでしょう、でも
届きそうな気がして
おばあちゃんとおじいちゃんに

ブランコに座って
話を続けてみる

うん、うん
もうすぐ帰るよ
待っていてね



「日時計」  梅昆布茶

生活という書式をたちあげる
ブラインドの隙間から
僕の一日がやってきたならば

年月という埃をまとわせ
洗濯機からまっさらな振りをしてでてくる
洗いざらしの理想

ベンジャミンフランクリンの凧
E=mc2
コペルニクスの朝餉

瞬間をつかまえきれないで
前走車も後続車もない
乾いた航続距離を測る

ハッブル宇宙望遠鏡は
24時間営業で次元のむこうを覗こうとして
いつまでも永遠にとどかない

そんな夏の日
壊れた時計をいじっている
ひまわりといっしょに日時計になる


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