きらる11

( ぼくたちの春 )





「、の隙間」  小林青ヰ

朝方のかれの背中は
つめたい空気に
ふるえているのか
あるいはこれからやってくる
時間にこごえて
いるのでしょうか



「みずうみ」  ごくろう君

みずうみが
私の
沈むのを
待っている

私は
みずうみの
まぶたが閉じるのを
待っている

しずかに澄んだ 藍色のみずうみを
まくらもとに置いて
みずうみを眠らせる
私は少し遅れて眠る



「いってきます」  土屋怜

いってらっしゃい、って
言ってくれるひとのいる
しあわせ

気をつけてね、って
心配してくれるひとのいる
あんしん

だからあたしは 旅立てる

いってらっしゃい
気をつけてね

いってきます



「ことの次第」  蒼風薫

ある春の日のこと
泉から女のひとが姿を現すから
嘘を答えるようにと
茶色の小鳥が教えてくれた
何も代償を求めずに

言われたとおりに
一番尊い値のそれを
わたしのものだと訴えた
女のひとは優しく肯き
この泉をあなたにあげようと
約束して 姿を消した
、以来わたしは泉の畔で
ずっと待っている
水仙の咲くのを



「野菜生活」  邑輝唯史

ピーマンだった朝
ごぼうと言われた昨日の昼
もやしっ子と中学時代揶揄され
これまで
土の匂いが抜けたことは一度もない
ハウスに移り住んだのは妹と義理の弟
僕は小さな畑の端っこで
売り物にならんなとこっそり日向ぼっこ
形が悪いとか糖分足りないとか
別に気に入ってもらいたい気持ちも持ち合わせず
キャベツで丸くなる
明日は大根になりませんかと
気遣う青虫がいたが
お好きなだけお食べになってくださいと横になる
天然の無農薬野菜というのが
ひとつだけ自慢の根っこで一年に一度実っては
誇らしげに太った腹を出す
蚊が一休みした一昨日の昼
熊が何気にのぞきに来た昨日の夜
青臭い春はまた芽出度いかいとやってくる


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