光の凱歌




友にカモミールの花束を
自転車を投げ捨て辿り着いた場所は、
青空と白い雲が広がる珊瑚礁の浜辺。

ときには
生きることが苦しく泣きたいときさえもある。
人の言葉を信じ
裏切られ傷つくことも分かっているのに、
それでも
人を信じたくなる自分が嫌になることさえもある。

そんなときは地中海の洒落たレストランのバルコニーで、
海の会話に耳をすましてごらん。

無邪気な君はそう囁いたね。

君が僕に教えてくれたこと。
人を信じることができない人は、
自分を信じることもできない可哀想な人なんだということ。

そう空がワイン色に姿を変え始める頃。
僕らの夏は
足跡を残していくままに、
太陽の香りのように
螢と共に君が忘れられていく。

二人で過ごしたあの夜。
お互いに神秘めいた何かに胸を弾ませながら、
僕らは川辺で螢に願いを込めたね。
この夜空の星々のようにそれぞれの生き方と未来を!

そして夏の香りが夜空に漂うあの日、
君は螢火のように
色鮮やかに燃えて逝った。
その万遍ない笑顔はまるで赤ん坊のようだった。
本当に無邪気な子供のような笑顔だったね。

ああ、大海原に眠る友よ!
君は波になったのかい?
君は潮風になったのかい?
君は珊瑚になったのかい?

ああ、そうだった、
君はこの大海原になったんだよね。

空には相変わらず壊れたストーブが笑っていれば、
セスナーが君の大好きな綿菓子を作っている時もあるよ。

どんなことがあろうとも夏は再び訪れる。

君は憶えているかい?
物心ついた日から僕らはずっと一緒だったね。
本当の兄弟のように、
いつも二人そろっては悪さばかりしていた。
そういえば、
僕らは近所の悪ガキで有名だったね。

あの懐かしさは波と共に忘れられてゆく。

出会うはずのない僕らが、
出会えたらどんなに素晴しいだろうか。

白いログハウスの中に残っているものは、
懐かしい記憶と君の幼い無邪気な面影だけ。

ああ、友よ!
君はもういない。
実感しないけど君はもういない。
ただそこに存在するのは夢を見失った大人がただ一人。

レースのカーテンが揺れる頃、
君の香りが漂う季節になったら、君に会いに行こう!
君の大好きだったカモミールの花束を持って。

そんななか再び僕らの夏は始まりを告げる。


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