マックスウェルの電磁気学




真の歴史によれば、マックスウェル方程式をいまある形式に書き直したものは、イギリスのオリヴァー・ヘヴィサイド(Oliver Heaviside, 1850年5月18日-1925年2月3日) とアメリカのジョサイア・ウィラード・ギブズ(Josiah Willard Gibbs, 1839年2月11日-1903年4月28日)であったといわれる。マックスウェルの時代にはベクトル表記は当時の最先端の数学事項であったためにまだそれほど一般的ではなく、マックスウェル自身は成分表示で記述した。そのためマックスウェルは自分の方程式を全部で20個の未知関数に対する20個の連立微分方程式の形に導いた。マックスウェルはそれを駆使して、「電磁波と光はともに横波であること」、「電磁波と光の速度は一致すること」などを初めて示したのである。それをヘヴィサイドとギブズが当時流行中の3次元ベクトル表記を使った4つの組の微分方程式に改めると同時に一部を簡略化したのである。これが古典電磁気学の基本中の基本となったマックスウェル方程式である。

さて現在に目を向けると、21世紀の最新テクノロジーの騎手の1つとして電線のいらない送電(無送電線)システムが注目を浴びるようになった。このアイデアはニコラ・テスラ(Nikola Tesla, 1856年7月10日-1943年1月7日) が初めて考え出したものだが、テスラは電磁場には縦波が存在するはずだと主張し、それを「スカラー波」と呼んだ。いまではこの謎めいた波動を「テスラ波」と呼ぶことがある。これまた意外なことに、この最新の研究分野からテスラの研究、そしてさらにはマックスウェル方程式にまで遡る研究のブームが起こっているのである。

そういうわけで、私は一度マックスウェルの原論文を読んでみるのも良かろうと思い、ひとまず日本語に翻訳しながら精読したのである。ところが読み始めてみると、マックスウェルの研究成果である彼の方程式もさることながら、そこへ至るまでのマックスウェルの考え方、その思考スタイルとでもいうべきものに深く感銘を受け、それに魅入られてしまったのである。そこにはまさしく「19世紀型の物理学」の姿が垣間見えたからである。「自然の謎解きをする科学」とでも呼べばいいだろうか。そんな科学のやり方がみられたのである。

こういう「19世紀型の物理」の研究方法は、アルノルト・ヨハネス・ゾンマーフェルト(Arnold Johannes Sommerfeld, 1868年12月5日-1951年4月26日) の「物理数学」時代に終わりを告げ、いまでは物理的実体を基にして自然現象のモデルを考えるというよりは、より数学形式を基にしたモデル化が行われる。思考実験よりは数値実験、物理的描像よりは数学的構造、物理的考察よりは数学的に厳密な論理、具体的思考よりは抽象的思考を尊ぶ。それゆえ、いまでは物理学者が「磁力線とは何か?」と問うことはない。むしろ「チャーン・サイモンズ項を加えるとどうなる?」と問う。そんなふうに、究明学としての物理学から数理学としての物理学へと変貌したのである。

そんな時代にあって、むしろ物理学とはこのようにして作られるのだということを示す「19世紀の物理」の論文を読むことは、われわれにとって一種の原点回帰でもありそれなりの価値がある。それゆえ、そのひな形の1つであるマックスウェルの論文を学ぶことは非常に意義深いことに違いない。

そんなわけで私が四苦八苦しながら何ヶ月もかけて日本語へ翻訳した拙訳もそれなりに価値があるだろうと考え、ここに一冊の書籍の形で公表することにしたのである。ぜひ読者諸氏にもマックスウェルの思考の醍醐味を味わって欲しい。「無から有を生み出す」とはいかに思考するのか知ることができるはずである。この目的が果たせたかどうか読者諸氏のご感想をいただく他はないが、少しでもこの本が読者の物理の発展に繋がればこれ幸いである。

しかしながら、かつて哲学者ショーペンハウエルが「自分の書物を翻訳するなら、自分以上の哲学者であらねばならない」といったように、同じことは本来マックスウェルの場合にも通用する。「マックスウェルの仕事を翻訳するのであれば、マックスウェル以上の物理学者であらねばならない」。その点、私自身は恥じ入るばかりである。



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