理解の壁



子どもの学力について,国内外でいろいろな調査が行われています。芳しい結果は聞かれず,これからどのように回復させていくか,特に,わからない,嫌いな教科に挙げられることが多い数学については,悩ましい課題になっています。

いつの時代でも,数学の不得意な人はいます。今の子どもだけではないのですが,「ゆとり教育」で以前は学習していた内容が大幅に削減されたこと,それに伴って授業時間も減少したことは,それに拍車をかけたようです。時代や社会的な風潮からかもしれませんが,わからなくても平気,わかろうと努力しない子どもが増えてきているのは残念なことです。

もちろん「わかりたい」のに,努力もしているのにわからないという子どもも多くいるでしょう。数学の先生も「わからせたい」と思って授業をしているはずですが,うまく歯車が噛み合わないことがあります。

「わかる」という経験はだれしもあるはずです。別に算数・数学に限らなくてもよいのですが,特に算数・数学の場合はその感動が大きいと思います。逆に見れば,「わからない」ととても苦痛になります。だから,数学から逃避するのだと思います。

数学を勉強していたら,よく壁にぶつかります。それは数学の内容の壁です。本書のタイトルは「理解の壁〜数学がわかるとは〜」です。数学を勉強していてぶつかる壁には,内容を超えて「わかる」ことそのものということもあります。「できる」,つまり正解が書けて高得点をとれるけれど,自分は本当に数学が「わかっている」のだろうかとか,「わかっている」のになぜ「できない」のだろうかという自分への疑問もあると思います。

「わかる」とは一言でいうのはなかなか難しい面があります。公式や定理,解法のアルゴリズムやパターンを暗記して,それらを使って解けることだけ・・・とも違うようですし,自分の持っている理解の型紙に合わせることだけ・・・でもないようです。また,わかったと思ったことを論理的に数学的に記述できることだけ・・・でもないようです。これらは,数学が「わかる」ことのいろいろな様相です。これらがすべてできるとよいのですが,どれかしかできない,どれもできないといった「壁」があると,数学が「わかる」ことへの壁ができてしまいます。

本書では,数学を理解するときに,その壁となる原因は何か,何が欠けているから,その理解ができないかに答えられるように,いろいろな理解の様相について解説をしました。わかることをわかる,理解を理解するということから「メタ理解」と呼ぶことにしますと,本書は数学のメタ理解について論じたものになります。

数学がわからないからどんな勉強をしたらよいのかという高校生,生徒に数学を教えているけれどわからせるにはどうしたらよいのだろうという先生に,本書は速効性のある解答にはなりにくいかもしれませんが,数学がわかるための土壌を改良する肥料にはなれると思っています。

何事も事を急いては,し損じることがあります。かといって,現状を鑑みれば悠長に構えておけるほどの時間はありません。そろそろ本当の数学教育を実践する時期になっているのではないかと思います。本書が,その一助になれればと祈念しています。



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