夏の後ろ姿





【小鳥のおしまいの日】

ある夏の日の
向日葵の黄唯色のふるえる夕空の下
巣を忘れてしまいたくなった一羽の淋しい茶色の小鳥が
啼いていた

  なぜ この時間になると
  わたしは帰らなくてはならないのでしょう

誰もが忙しなく 小鳥は相手にされなかった
さらに、啼く

  なぜ わたしには翼があるのでしょう

その刹那に通りがかった風が驚いたように
凪いだ

それを知ると小鳥はなおのこと啼いてやまない
そのうちにすっかりと暮れてしまって
小鳥には何も見えない闇となった

  理由はもうどうでもいいのです
  わたしはわたしの巣に帰りたいのです

手遅れで
野良の猫の仕業であろうか
次の朝の陽光の許に再び
淋しい茶色の小鳥がさえずって遊ぶことは
なかった



【りんご飴】

雨を待つ八月の庭も終わるころ
きっとあの場所でひっそりと開かれる
時節はずれの打ち上げ花火の祭り

ほら
やっぱり

永遠を知る子どもたちが今年も

集っている
屋台が大人気だ
せいいっぱいの小遣いで
あの子はりんご飴を買ったようだ

紅(くれない)に香る甘さがとても似合っている
晩夏のあの子のお財布に
りんご飴はとても

似合っている
わたしにもそのせいいっぱい
があったなら…

切に、そう
思った

去りし昨日
の熱の中



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