フラーとカウフマンの世界



データ

作者名 作品の分類 ページ数
井口和基 評論 246

ISBN 書籍サイズ 定価(税込・円)
978-4-901351-59-1 A5 2,090




概要
【フラーについて】

バックミンスター・フラー(1895-1983)は、20世紀のアメリカを代表する偉大な建築家である。フラーが創始したサッカーボール型ドームは極めて有名で、今日でも世界のどこかで目にするものである。また、正四面体と正八面体の梁(はり)構造を持つオクテットトラス構造も建造物の骨組み構造として現代も使われている。1990年代にはフラードームと全く同じ構造を持つ炭素化合物が発見され、フラーレンと命名され、発見者たちはノーベル化学賞に輝いた。宇宙のように巨視的構造からウィルスや細菌のように微視的構造まで貫く基本原理「思考の幾何学」を生涯に渡って探究した人物がフラーであった。

しかし、この天才フラーとて順風満帆な人生ではなかった。ハーバード大学では二度の退学を経験。海軍に入る。除隊後若くして始めたベンチャー企業は二度の倒産。長女も病気で失った。社会の負け組として、「エゴのために死ぬ」か、「エゴを殺して生きる」かの選択を余儀無くされ、自殺の瀬戸際にまで追い詰められた。職もなく、することもないフラーにはまだ考える時間だけが残されていた。この宇宙について、自分について、人類についてなどあらゆることを考え抜いた。1927年に奇跡が訪れた。すべての悩みや迷いは消え失せ、世界は宇宙を貫く根本原理、最少のもので最大の効果を引き出すという「シナジー」の概念を発見した。そして生涯に渡りその原理の実現を目指し、最初は家や建築物に、自動車などの乗り物から工学に、後には生物学、数学、教育、政治、社会に至るまであらゆるものに拡張された。

この間、フラーは多くの本を書いた。特に著名なものは、フラー思想を散文的にまとめた「シナジェティクス:思考の幾何学」という謎めいた本である。また「宇宙船地球号操縦マニュアル」では、宇宙から地球を見る視点を世界にもたらした。現在我々が使う「宇宙船地球号」という言葉はフラーの発明である。そして晩年のフラー哲学集大成「クリティカル・パス」にはそれまでのすべての本のエッセンスが分りやすく綴られている。


【カウフマンについて】

スチュアート・カウフマンは、1939年生まれの医者出身の異色の理論生物学者、カオス理論学者、複雑系理論学者である。SF映画「ジュラッシック・パーク」に出て来るカオス理論学者マルカム博士のモデルになった人物としても知られている。今や世界のカオス理論や複雑適応系理論のメッカであるサンタフェ研究所のスーパースターの1人でもある。カウフマンは生物進化のカウフマンのNKモデルという理論を創始して、生命の誕生と進化の神秘に生涯に渡って挑んでいる。特に生命現象を説明するには物理法則に基づく還元主義的なアプローチだけでは不十分であり、非還元主義的アプローチの必要性を説いている。それがカウフマンが創始した「複雑適応系理論」である。

カウフマンはフラーとは違い、子供の頃からその輝かしい才能を発揮し、すべての学校生活でトップスター的な人生を歩んできた。そして研究者になってからもいつもトップスターの役割を演じてきたという希有な研究者である。しかし悲劇は突然訪れた。それはカウフマンがロスアラモス研究所にいた頃のこと。最愛の娘を交通事故で失ってしまった。これを境にカウフマンは生命の不思議さにより一層考えを及ばせるようになった。そしてダーウィンの「種の起源」に挑戦して「秩序の起源」という本を書いた。他にも「宇宙の中の家」や最近には哲学者ヴィトゲンシュタインの「哲学探究」に挑戦した「探究:カウフマン、生命と宇宙を語る」という本を書いたのである。


【この本の目的について】

私の「フラーとカウフマンの世界」は、生きた時代も活躍した分野も一見全く異なるこれら2人の発想の中に見事に一致する、極めて深遠な内容があるという「驚くべき」発見を説明するために書いた。私は最初シナジーやシナジェティクスの意味を科学者の言葉に翻訳することを試みた。というのも、フラーの創始した多くの概念は神秘的かつエッセイ風に語られているために、普通の人が読めばおよそその意味を理解することすら難しく、ともすれば単なるフィクションとすら見なされかねない代物だからである。にもかかわらず、フラーの神髄を少しずつ理解していくと、それが現在「複雑系理論」分野におけるカウフマンの発想と実に良く似ていることに私は気付いた。

しかし、その見方はちょうど裏腹であった。カウフマンが「複雑」と考え、「複雑系理論」の発露となった弱肉強食の混沌な世界は、フラーにとっては宇宙ともに一体となった完全調和が保たれる「完全統合」の世界として見えたのである。「完全統合系」と「複雑系」のこの奇妙な裏腹の関係、双対性(デュアリティー)を私は発見した。そしてフラーとカウフマンの生きざまを知るうちに、それもまた裏腹であったことに私は心打たれたのである。この不思議な世界への入り口を人々に紹介するのが本書の目的である。どこまで私の真意が伝わったかは読者の判断に委ねる他はない。


目次
まえがき

フラーレン
 ノーベル賞の発想 〜頭脳+意志+風土〜
 不斉合成触媒の右利き左利き 〜野依博士の仕事は偉大だ!〜
 プリオンもそうですね。
 隕石衝突とフラーレン
 フラーレンねこじゃらし
 フラーレン檻の刑なんてどうだろう?
 バッキーメディシン 〜フラーレン・ドラッグ〜

バックミンスター・フラーの世界
 バックミンスター・フラーは現代のギリシャ人だ?
 バックミンスター・フラーの世界
 フラーの思想圏の偉大さ 〜宇宙人的視点〜
 フラーの仕事のやり方の神髄
 退屈は自分のマインドを眠らせている兆候である。(フラー)
 カーナビ開発が示すフラーの預言
 今フラーが生きていたら空飛ぶ円盤を作っていただろう!
 フラーの言う「技術革命を阻害するもの」 〜法規制〜
 明るさ、自分、根無し草
 たんぱく質の中のオクテット・トラス構造
 補足 〜ステップ・バイ・ステップが大事である〜
 フラー睡眠
 フラーとアンの物語&自殺志願者からフラーへの道
 フラーのクリティカル・パス
 フラーの「世界権力機構の黄昏」
 フラーの友人ウォルター・ルーザーの教訓
 フラーのクロノファイル
 フラー研究所とシナジェティクスのホームページ
 ウルフラム博士のニューサイエンス
 フラーのシナジェティクスの中の不思議な図 Plate6
 フラーの人類進化論
 フラーは自分の進化論が受け入れられないと知っていたのである!
 未解決のサイエンス 〜宇宙の秘密、生命の起原、人類の未来を探る〜
 遺伝子解析の盲点 〜いろんな座標がとれる〜
 フラーのフェニキア人論、アメリカ国旗論、ニューディール政策論
 「時系列の判別はDNAからできる」はず?
 人類進化の問題は実に面白い。
 フラーはいずれ偉人たちに並ぶ時が来る!
 フラーの教訓 〜大恐慌復興計画マニュアルの準備〜
 フラーのプリセッション概念の意味 〜アカデミズムの真の理解〜
 特許庁のホームページ&フラーの天空に浮かぶ都市
 ルーズベルトとチャーチルの遠大な計画&ジオ・スコープ
 フラーのワールド・ゲーム
 フラーの言う在宅勤務の重要性とアフガン問題の根源
 教育におけるフラーのエフェメラリゼーション
 フラーのインターネット&マルチメディア教育
 フラーの経済論
 知性の存在しないところにシントロピーはない!
 ノーベル賞とフラー賞の違い
 シナジェティクスに関する面白いHP
 フラー自身によるテンセグリティーの解説
 フラーから何を学ぶべきか? 〜シナジェティクス=デザイン物理学?
 所得税は第一次世界大戦後に出来た! 〜今も生きるフェニキア人〜
 イギリスはバイキングの国、アメリカは東インド株式会社
 21世紀の世界はギリシャ・ローマを疑うことから始まる!

日本のフラーたちとフラー精神
 日本で生きるフラーのテンセグリティー
 日本のフラー、加藤源重さん
 日本のフラー、加藤源重さんNHKゆうゆう出演
 ホームレスの大発明 〜フラーエアードーム物語〜
 ハーケンのシナジェティクス=フラーのシナジェティクスではない!
 日本の特許制度は先願主義 〜個人を大事にしない国に将来はない!〜
 ジョン・レノンのイマージンとフラーの包括的世界は同じなのである!
 東洋と西洋を完全統合する道はある?

スチュワート・カウフマンの世界
 カウフマン、生命と宇宙を語る
 カウフマンの形状空間とグロタンディークのカテゴリー
 形状空間はフラーのデザイン空間 〜デザイン・サイエンス誕生〜
 形状空間とシナリオ宇宙
 人文科学の統計指標は形状空間を作るだろう!
 カウフマンのInvestigationsのオリジナル

フラーとカウフマンの世界
 ユーレカ! 〜フラーとカウフマンの世界の融合だ!〜
 ペンローズのスピン・ネットワークとフラーのシナジェティクス
 包括的思考力、これが21世紀のキーワード
 フラーとカウフマンの違い1 〜多様性の科学への宣言〜
 フラーとカウフマンの違い2 〜世界はもっと深い!〜
 フラーとカウフマンの違い3 〜サンタフェvsフラー〜
 フラーとカウフマンの違い4 〜アカデミズムのグランチ・オヴ・ジャイアンツ〜
 フラーとカウフマンの違い5 〜若貴相撲バブルの終焉〜
 フラーとカウフマンの違い6 〜相補的な大天才〜
 ユダヤ還元主義の黄昏れ

あとがき



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